ホビー・フィギュア業界のリーディングカンパニーである株式会社壽屋(コトブキヤ)が、デジタルコンテンツ領域への本格参入を発表しました。

2026年6月15日、VTuber開発事業などを手掛けるムジュウリョク株式会社との共同出資による合弁会社「株式会社VEID(ヴェイド)」の設立が明らかになりました。事業内容はバーチャルタレントを含む動画コンテンツの企画・制作・配信および運営とされています。
老舗ホビーメーカーであるコトブキヤは、なぜ今VTuber事業に乗り出すのでしょうか。本記事では、ニュースの表面だけでは見えてこない合弁会社設立の深い背景や、両社が持つ圧倒的な技術力、そして未来のエンターテインメント戦略について徹底的に解説します。
コトブキヤがVTuber市場へ本格参入する理由

コトブキヤはこれまで、フィギュアやプラモデルを中心に企画から製造、販売までを一体で担う体制で国内外に展開してきました。近年は自社オリジナルIPを軸とした展開を進めていましたが、エンターテインメント市場全体では短尺動画やライブ配信を中心としたデジタル領域の市場拡大がメガトレンドとなっています。
コトブキヤが合弁会社を設立してまで新領域に挑む背景には、大きく分けて二つの理由が存在します。
VTuber市場の収益構造の変化
現在、VTuber市場は世界規模で急速に成長しており、数千億円の市場規模に達しています。しかし、ここで注目すべきは市場の大きさではなく、収益構造の変化です。
近年のVTuberビジネスにおける最大の資金源は、配信での投げ銭や広告収益から、キャラクターIPを活用した「グッズ販売」へとシフトしています。つまり、デジタルで人気を集め、フィジカル(物理的)な製品で利益を出すというモデルが確立されつつあるのです。自社で強力なグッズ製造インフラを持つコトブキヤにとって、この市場は非常に相性が良く、自社でIPを育てれば「中抜きのない高利益なバリューチェーン」を構築できることになります。
物理的製造業が抱える財務的ジレンマの打破
もう一つの理由は、製造業ならではの課題解決です。近年のコトブキヤは売上高の成長を維持しているものの、グローバルサプライチェーンにおける製造原価の高騰や物流費・人件費の上昇により、利益率が圧迫される状況にありました。
この「増収減益」の構造を打破するためには、原価高騰の影響を受けにくく、限界費用の低いデジタル領域(無形資産)での収益化が急務でした。VEIDの設立は、高粗利なデジタルIPビジネスへ事業を拡張するための、極めて合理的な経営判断といえます。
合弁相手「ムジュウリョク」とは?現実干渉型技術の可能性

コトブキヤのパートナーとして選ばれたムジュウリョク株式会社は、リアルとバーチャルの境界を越える技術開発に特化したテクノロジー企業です。創業陣は、VTuber黎明期から日中でコンテンツビジネスを牽引してきたエキスパートや、有名3Dゲームの開発を手掛けたゲームデザインのプロフェッショナルで構成されています。
キラーテクノロジー「V-DIVER」
ムジュウリョク最大の強みは、バーチャルキャラクターが現実世界の物理空間にリアルタイムで直接干渉できる新型VTuberシステム「V-DIVER」です。
単なる画面越しのAR(拡張現実)ではなく、バーチャルアバターが現実の製品を手に取り、質感を伝えながら歩き回るような表現を可能にします。この技術と、同社が保有する高度なモーションキャプチャスタジオの連携により、VEIDに所属するVTuberは他社にはない圧倒的な「動きのリアリティ」を獲得することになります。
圧倒的な3D技術!コトブキヤが蓄積してきたデジタル資産
一方で、コトブキヤ側も単なるホビーメーカーの枠に収まらないデジタル技術を既に蓄積しています。
メタバース空間向けの3Dアバター販売では大きな実績を持っており、特にオリジナル3Dモデル「旅枕ヨカ」の開発では、VTuberの表現技術(Live2D等)を初期から投入し、無限の表情改変を可能にしました。
さらに、アパレル産業の3Dシミュレーション技術を応用し、VR空間内での布の質感やシワの寄り方を現実世界と同等レベルで再現しています。
これらの技術によって生み出される「物理演算や現実の製造工程に耐えうる精緻なデジタルツイン」は、VEIDの所属タレントの3Dモデルに直接活かされることになります。
リアルとデジタルの融合!新経済圏をもたらすOMO戦略
コトブキヤの「立体物製造力・高度な3Dモデル」、ムジュウリョクの「V-DIVER技術」、そしてコトブキヤが業務提携を結んでいる世界的エンタメ企業GENDA(ジェンダ)のアミューズメント施設網。これらが組み合わさることで、全く新しい「OMO(Online Merges with Offline)」型のIPエコシステムが完成します。
次世代のバーチャル・ライブコマース

今後予想される展開として、VEIDのVTuberがムジュウリョクの技術を使って、コトブキヤの最新フィギュアの試作品を「物理的に」手で持ち上げ、可動域を動かしながら世界に向けてライブ配信で宣伝する、といった次世代のライブコマースが可能になります。
これによりファンは、圧倒的な実在感を持ったプロモーションを体験し、以下のサイクルが生まれます。
- デジタルでの熱狂:VEIDのVTuberがグローバルでファンを獲得。
- リアルでの体験:GENDAが運営するゲームセンターやカラオケで、コラボカフェや限定プライズ景品を楽しむ。
- 高品質な所有:コトブキヤが製造するハイエンドなフィギュアやグッズを購入する。
まとめ:VEIDが切り拓くエンターテインメントの未来

株式会社VEIDの設立は、単なる流行への便乗ではなく、「IP価値の最大化」と「物理的製造業の限界突破」を両立させるための抜本的な事業構造の変革です。
企画から制作、配信、そしてフィジカル製品の製造・販売までを自社グループ内で完結できる体制の構築は、変化の激しいエンタメ業界において大きな強みとなります。VEIDから生まれるバーチャルタレントが、今後どのようにデジタルと現実の境界線を溶かし、新しい顧客体験を提供していくのか、今後の動向から目が離せません。