経済

2025年度の実質賃金はなぜ4年連続マイナスなのか?物価高と「年収の壁」から読み解く日本経済

2026年5月24日

厚生労働省が発表した2025年度(令和7年度)の毎月勤労統計調査(確報、従業員5人以上)は、現在の日本経済が抱える複雑な課題を浮き彫りにしました。

ニュースなどで「賃上げ」が話題になる一方で、私たちの生活実感としてはなかなか豊かさを感じられないのが現状です。本記事では、最新の統計データをもとに、なぜ実質賃金がマイナスになり続けているのか、その背景にある物価高や労働市場の構造的な問題について分かりやすく解説します。

賃金は上がっても生活が苦しい?実質賃金低下の背景

2025年度の調査結果で最も注目すべきポイントは、物価変動の影響を除いた労働者1人当たりの実質賃金が前年度比で0.5%減少したという事実です。この実質賃金のマイナスは、なんと4年連続となります。

名目賃金は過去にない力強い伸びを記録

実は、私たちが実際に受け取っている給与の額面である「名目賃金(現金給与総額)」は、前年度比2.5%増の35万7979円と大きく伸びています。

基本給などの「きまって支給する給与」は2.3%増、賞与などの「特別に支払われた給与」は3.0%増と、いずれも高い伸びを示しました。深刻な人手不足や春闘での強い賃上げ要求を背景に、企業がベースアップや賞与の増額に踏み切っていることは間違いありません。

賃上げを上回るインフレの壁

それにもかかわらず実質賃金が下がってしまった最大の理由は、物価上昇のスピードが賃金の伸びを上回っているからです。

実質賃金の計算に使われる2025年度の消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)は、前年度比で3.0%上昇しました。この指標が3%を超えるのは4年連続です。

つまり、給料が2.5%増えても、生活に必要な支出が3.0%増えてしまっているため、実質的な購買力(お金の価値)は0.5%目減りしている状態が続いているのです。

物価高の主役はエネルギーから食料品へ

私たちの家計を圧迫しているインフレの中身も、以前とは少し変わってきています。

食卓を直撃する食料品価格の高騰

2025年度の物価上昇を牽引したのは、電気代などのエネルギー価格ではなく「食料品」でした。エネルギー価格の上昇率は政府の補助金などの効果もあり前年度比0.7%に留まりましたが、食料全体の指数は前年度比で5.8%という異常な上昇を記録しています。

特に価格高騰が目立ったのは以下の品目です。

  • コメ:猛暑による品質低下や収穫量減少、農業資材の高騰
  • チョコレート等の加工食品:カカオ豆など国際的な原材料価格の急騰と歴史的な円安

食料品は生活に不可欠なため、買い控えることが困難です。そのため、食費の割合(エンゲル係数)が高い家庭ほど、統計上の0.5%減という数字以上に、生活の苦しさを強く実感していると考えられます。

「年収の壁」がもたらす労働時間の減少と人手不足

日本経済のマクロデータは、働き方の違いによる大きな歪みも示しています。特にパートタイム労働者を取り巻く環境は深刻です。

時給は過去最高に急騰しているのに給与総額は伸び悩む

2025年(暦年)のデータを見ると、パートタイム労働者の時給は前年比3.8%増の1394円と過去最高水準に達しました。しかし、月間の現金給与総額は2.3%増(11万4455円)に留まっています。

時給が大きく上がっているのに給与総額があまり増えない理由は、「労働時間」が劇的に減少しているからです。パートタイム労働者の総実労働時間は前年比で1.4%減少しました。

働き控えを誘発する社会保険制度のジレンマ

この現象の背景にあるのが、いわゆる「年収の壁(103万円・130万円の壁など)」問題です。

時給が上がったことで、これまでと同じ時間働くと、社会保険の扶養から外れて手取りが減ってしまう(働き損になる)基準額に早く到達してしまいます。それを避けるために、労働者が自発的に働く時間を減らす「就業調整」がかつてない規模で発生しているのです。

企業側は時給を上げて人を集めても、一人あたりの働く時間が短くなるため、さらに多くの人を雇わなければならず、これがサービス業や小売業の深刻な人手不足の根本原因となっています。

2026年度に向けた日本経済の展望と懸念材料

苦しい状況が続く中にも、年度末には少しだけ明るい兆しが見えました。

春闘の成果による実質賃金プラス化の兆し

2026年13月期のデータでは、実質賃金が一時的に1.3%の増加(プラス)に転じました。これは、2026年春闘における平均5.26%という歴史的な賃上げ妥結の波及や、エネルギー価格の安定が影響した結果です。

しかし、年度を通してみれば依然としてマイナス(0.5%減)であり、このプラスの兆しを2026年度以降も定着させることができるかが大きな課題です。

外部環境のリスク:中東情勢と円安

今後の日本経済を左右するのは、国内の賃上げ努力だけでなく、外部環境のリスクです。

  • 中東情勢の緊迫:原油や天然ガス価格が再び高騰すれば、あっという間に国内の物価を押し上げます。
  • 歴史的な円安の定着:輸入品価格の高騰を通じて、生活必需品のインフレを長引かせる要因になります。

日本銀行は、実質賃金がマイナスの状況下で急激な利上げをすれば企業の賃上げ機運に水を差す恐れがあり、非常に難しい舵取りを迫られています。

まとめ:真の経済成長を実現するために

2025年度の毎月勤労統計調査は、名目賃金が上がる一方で物価高に追いつけず、実質賃金が4年連続で低下するという「スタグフレーション(不況下の物価高)」のような停滞リスクを示しました。

日本経済が持続的な成長軌道に戻るためには、以下の取り組みが急務です。

  • 「年収の壁」を生む税制や社会保険制度の抜本的な改革
  • 中小企業が適切に価格転嫁できる環境の整備と、生産性の向上
  • エネルギー調達網の多角化と国内の食料安全保障の強化

私たち消費者にとっても、単なる節約だけでなく、自身のスキルアップによる所得向上や、インフレに負けない資産防衛など、新しい経済環境に適応していく視点がますます重要になっています。

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